近年、テレワーク・リモートワーク化が進む中でシンクライアントが注目されるようになりました。ここでは言葉は聞いたことはあるが、内容までよく理解していないという人に向け、シンクライアントの基礎知識をまとめました。
シンクライアント(Thin Client)のThinとは「薄い・細い」といった意味があり、クライアント端末の機能は最小限にして、ほとんどのデータ処理をサーバー側で行う管理システムのことをいいます。
アプリケーションの実行やデータ保存などはサーバー側で行い一元管理されるため、端末に重要な処理データは残りません。そのため、端末の紛失・盗難による情報漏洩防止や運用管理コスト軽減効果が期待できます。
データ処理を一箇所に集中させ、端末から操作するという仕組みはコンピュータ汎用機の時代からありました。再び同じような仕組みが注目されるようになったのは、以下のような世の中の流れが影響していると考えられます。
総務省の調査によると、新型コロナウイルス感染が拡大した2020年から急速にテレワーク導入企業が増加し、2022年時点ですでに50%を超えています。働き方改革が叫ばれる中で、感染症対策がリモートワーク普及を後押ししたといえるでしょう。
それに伴い、情報漏洩リスクという問題も生まれました。持ち出し端末が増えると、紛失や盗難で機密情報を知られてしまう危険性が高くなるからです。端末側でデータ処理を行わないシンクライアントの仕組みはこうした流れに合致しました。
参照元:総務省「令和5年 情報通信に関する現状報告の概要」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd24b220.html)
総務省の報告書によると、テレワーク利用の端末の形態は会社支給の通常職場で使用しているPC端末が最も多く、68.4%です。それ以外にも従業員所有のPC端末、モバイル端末(会社所有・モバイル所有)など多岐に渡ります。(令和3年4月時点)
このことからセキュリティ対策はもちろんですが、FAT-PCを継続利用すれば管理者はOSやアプリケーションのアップデートにも個別対応しなければなりません。すべての端末を管理するのは困難になり管理コストも膨れ上がるでしょう。
シンクライアントは端末側を軽くしサーバー側で一元管理できるため、こうした管理コストの削減につながるというわけです。
参照元:【PDF】総務省「テレワークセキュリティに係る実態調査(2次実態調査)報告書 P.129」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000744643.pdf)
システムの処理形態は大きく分けると、集中処理と分散処理に分けられます。1台のホストコンピュータに複数の端末を接続し、ホストコンピュータが処理のすべてを担うのが集中処理システムです。
これに対し分散処理は、1つの処理を分散して複数のコンピュータが行います。1台のコンピュータですべて処理するよりも処理速度が向上するメリットがありますが、セキュリティ対策や運用管理にコストがかかるのがデメリットです。
シンクライアントは集中処理に該当します。分散処理のデメリットをカバーできるため、リモートワーク化が進むにつれ注目されるようになりましたが、今度は集中処理のデメリット部分が浮き彫りになってきました。
その一つが、集中処理を行うサーバーの負担が大きく、アプリケーションの動作が重くなることです。その他、導入コストが高くなり、ネット接続環境がないと使えない、サーバーがダウンすると業務がストップするなどがあります。
シンクライアントを導入する際はメリット・デメリットはもちろんですが、基本的な仕組みも知っておく必要があります。サーバー側で集中処理を行うのは同じですが実行方式は、ネットワークブート型と画面転送型があります。
この中で現在主流となっているのは画面転送型の中でも、デスクトップ仮想化(VDI)型と呼ばれるタイプ。これは、サーバー上に仮想デスクトップ環境を作成しクライアント端末からアクセスする方式です。
クライアント端末が個々にアクセスするため、アクセス集中による影響が出にくくなるというメリットがあります。その一方で、VDIごとにライセンス費用が発生しシステムを構築するコストが高くなりやすいのがデメリットです。
シンクライアントは端末側に処理の負担をかけないため、ハイスペックな端末は必要としません。用途により以下の4種類から選べることを知っておきましょう。
以上のように、シンクライアントには方式や端末の違いがあります。導入コストが高いことがシンクライアントの問題点として指摘されることが多いですが、少しでもコストを下げるには自社環境に合った方式・端末を選ぶことが重要です。
また、最近ではシンクライアントの問題点を解消する「データレスクライアント」が注目されています。処理は端末側で行い、データの保存だけを行う仕組みでサーバーの負荷を軽減し、導入コストも抑えることができます。
これからシンクライアントの導入を検討するのであれば、データレスクライアントも含め自社に最適なものを見つけることをおすすめします。